【S2-2】胎盤発生のモデルシステムの展望 ―これまでとこれから―
1)カリフォルニア大学 サンディエゴ校
2)カリフォルニア大学 サンディエゴ校
2)カリフォルニア大学 サンディエゴ校
従来、胎盤発生の分子細胞学的研究は、ヒト胎盤幹細胞が樹立困難だったこともあり、主にマウスの胎盤幹細胞や腫瘍由来の不死化細胞株などが使用されてきた。しかし、マウスとヒトでは胎盤の形態や着床、遺伝子・タンパクの発現パターンが異なる点、および癌では正常胎盤発生とは異なる点などが問題視され、ヒト胎盤初期発生の研究には使用しにくいことが難点であった。そこで、近年ではヒト多能性幹細胞を使ってトロホブラストの分化モデルでの研究が進められるようになり、正常妊娠だけでなく、妊娠合併症モデルの研究も可能になった。患者由来の細胞で検討を加えることで、遺伝子の構造的変化やエピジェネティックな変化、インプリンティングの異常などが原因によると考えられる妊娠合併症の分子細胞学的解析が可能となってきている。しかし、これらの研究で使われているトロホブラスト分化のプロトコルでは、トロホブラスト幹細胞から胎盤構成細胞への分化の際、最終分化した絨毛外栄養膜細胞と合胞体栄養膜細胞が混在して培養されてしまうという欠点が内在していた。2018年、東北大学の岡江、有馬らにより、胚盤胞と妊娠初期胎盤の初代培養細胞からヒト胎盤幹細胞(hTSC)の樹立が報告され、それ以降ヒト胎盤分化の研究に大きく貢献している。今回、正常妊娠における胎盤の初期発生、合併症妊娠における異常の分子細胞学的機序の考察などについて、ヒト胎盤幹細胞を使用した我々の研究を紹介する。胎盤の初期発生の機序や病態発生機序の解明を目指している。