ライブセッション
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第2日目 – 2021年8月8日 日曜日
- 9:3011:00
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シンポジウム2
「胎盤と先天異常」座長:登美 斉俊慶應義塾大学薬学部薬学科薬剤学-
登美 斉俊慶應義塾大学薬学部薬学科薬剤学
抄録
妊婦や胎児への薬物治療において、胎盤透過性は考慮すべき重要な指標であるが、ヒトで臍帯血中濃度が実測可能な薬物は限られる。そのため、代替手法からヒト胎盤透過性を高精度に予測する方法論の確立が不可欠である。出産後のヒト胎盤を用いたex vivo胎盤灌流による透過性評価は、実組織を用いた解析系として有用であり、報告数も多い。一方、一部薬物では妊婦で得た胎児血:母体血薬物濃度比(F:M ratio)とex vivo胎盤灌流でのF:M ratioが乖離するため信頼性に欠け、十分に活用されていない。我々は、ex vivo灌流実験で得られた薬物濃度推移から薬物動態モデルを構築し、ex vivoでは実施不可能な長時間の濃度推移をin silicoシミュレーションすることで、妊婦で得たF:M ratioを再現することに成功した。つまり、灌流可能な時間には限界があり、一部の薬物では定常状態に到達していない状態でF:M ratioを評価していることが不一致の主要因であるが、薬物動態モデルの併用で定常状態でのF:M ratioを推定することで克服できることを明らかにした。ラットなどげっ歯類を用いた胎盤透過性評価は殆どの薬物で実施されているが、種差の問題があり、こちらも十分に活用されていない。我々は、ラットにおけるF:M ratioはヒトに比べて低い傾向にあること、そしてこの種差の一因はタンパク結合率の種差であり、遊離形薬物のF:M ratioを指標とすることで克服できることを突き止めた。また、胎盤関門に発現する薬物トランスポーターの発現量種差にも着目し、ヒトにしか発現しないトランスポーターや、ラットではヒトの数百倍発現が高いトランスポーターについて、それらが薬物の胎盤透過に及ぼす影響を解析している。代替手法で得たデータから、定常状態における遊離形薬物のF:M ratioを精度高く予測可能することで、薬物のヒト胎児作用予測をより精緻なものとすることを目指していきたい。 -
堀井 真理子Department of Pathology, University of California San Diego
抄録
従来、胎盤発生の分子細胞学的研究は、ヒト胎盤幹細胞が樹立困難だったこともあり、主にマウスの胎盤幹細胞や腫瘍由来の不死化細胞株などが使用されてきた。しかし、マウスとヒトでは胎盤の形態や着床、遺伝子・タンパクの発現パターンが異なる点、および癌では正常胎盤発生とは異なる点などが問題視され、ヒト胎盤初期発生の研究には使用しにくいことが難点であった。そこで、近年ではヒト多能性幹細胞を使ってトロホブラストの分化モデルでの研究が進められるようになり、正常妊娠だけでなく、妊娠合併症モデルの研究も可能になった。患者由来の細胞で検討を加えることで、遺伝子の構造的変化やエピジェネティックな変化、インプリンティングの異常などが原因によると考えられる妊娠合併症の分子細胞学的解析が可能となってきている。しかし、これらの研究で使われているトロホブラスト分化のプロトコルでは、トロホブラスト幹細胞から胎盤構成細胞への分化の際、最終分化した絨毛外栄養膜細胞と合胞体栄養膜細胞が混在して培養されてしまうという欠点が内在していた。2018年、東北大学の岡江、有馬らにより、胚盤胞と妊娠初期胎盤の初代培養細胞からヒト胎盤幹細胞(hTSC)の樹立が報告され、それ以降ヒト胎盤分化の研究に大きく貢献している。今回、正常妊娠における胎盤の初期発生、合併症妊娠における異常の分子細胞学的機序の考察などについて、ヒト胎盤幹細胞を使用した我々の研究を紹介する。胎盤の初期発生の機序や病態発生機序の解明を目指している。 -
左合 治彦国立成育医療研究センター、>周産期・母性診療センター
抄録
双胎妊娠は単胎妊娠に比べ児の先天異常の発生頻度が高く,双胎妊娠でも二絨毛膜双胎に比べ,一絨毛膜双胎において発生頻度が高い.一絨毛膜双胎ではtwinningによる異常(結合双胎,無心体双胎など)や胎盤吻合血管による血流異常(心奇形,小頭症,水頭症,小腸閉鎖など)など一絨毛膜双胎に特有な病態があるためである.一絨毛膜双胎では二児で一つの胎盤を共有するために胎盤には両児間の吻合血管が存在する.胎盤吻合血管を介して両児間の慢性的な血流不均衡を来したのが双胎間輸血症候群(twin-twin transfusion syndrome:TTTS)である.一絨毛膜双胎の約10%にみられ,児の発育不全,心不全,脳神経障害,早産,子宮内死亡などを来す極めて予後不良な疾患である.TTTSに対しては胎児鏡下レーザー凝固術(fetoscopic laser photocoagulation :FLP)という胎児治療が行われる.子宮内へ胎児鏡を挿入して病因である胎盤血管をレーザー凝固して血流不均衡を改善する治療法である.2004年ランダム化比較試験で有効な治療法であることが証明されTTTSに対する第一選択治療法となり,本邦でも良好な治療成績が示され2012年に胎児治療法として初めて保険収載された.本邦のFLP施行例は2018年に2000例を超え,年間約200例が施行されている.治療成績は少しずつ向上しており,少なくとも1児生存率は95%以上に達し,長期予後は3歳時での脳神経障害は8.5%であった.胎盤吻合血管による血流異常が胎児治療によって子宮内で改善できる可能性がある.妊娠中期以降に発症するTTTSに起因する脳神経異常の発症を防ぐ可能性は示唆されている.以前は実験的・先進的治療であったが今や標準的治療となったTTTSに対するFLPを通して,双胎の胎盤異常と先天異常について胎児治療の観点から考察する.
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- 11:0012:00
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座長:黒坂 寛大阪大学歯学部附属病院矯正科
演者:Ophir KleinHuman Genetics and Craniofacial Biology, University of California, San Francisco抄録
Birth defects are a principal focus for clinical geneticists. Currently, there are very few nonsurgical interventions available for structural birth defects, and fundamental studies in developmental biology offer hope for future therapies. More generally, a central challenge facing medicine today is the development of strategies for organ regeneration and repair, and an important next step for regenerative medicine is to understand the mechanisms by which mammals naturally use stem cells to renew and heal tissues. I will present data from our recent work focusing on stem cells in teeth, the oral mucosa, and the gastrointestinal tract as examples of organs that undergo constant renewal. First, I will discuss our studies of the continuously growing rodent incisor, which provides a model that allows for powerful integration of investigations into how stem cells function, how they evolved, and how their behaviors are coordinated across tissues. Second, I will present recent work from our lab examining the identity of stem cells in the lining of the mouth, and third, I will discuss the response of gastrointestinal epithelial stem cells to injury. Finally, I will integrate into the talk some thoughts about the potential implications of progress in developmental and stem cell biology for the fields of clinical genetics and teratology.
- 12:0013:00
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企業セミナー
胎児画像診断による出生前遺伝子解析の適応演者:夫 律子クリフム夫律子マタニティクリニック臨床胎児医学研究所 胎児診断センター 胎児脳センター抄録
NIPT、PGT-A、分子遺伝学の急速な発展により出生前診断においても遺伝学的知識が要求されるようになってきた。諸外国では出生前の染色体マイクロアレイ(CMA)検査や遺伝子検査も多く報告されるようになった。当院では倫理委員会の承認を得て胎児超音波画像診断・絨毛・羊水検体からデータ分析し、選択例でCMA, TES(ターゲットエクソーム検査)を行っている。現在では6,704遺伝子のパネルを用いその中から各領域別に遺伝子群を選択し表現型異常にマッチした遺伝子群を解析対象とすることにより網羅的解析ではなく選択的遺伝学的解析を可能としている。またシークエンスデータをもとにXHMMアルゴリズムを用いてコピー数異常の有無も解析している。当院ではTESを行った症例のうち病的陽性率は33%であり、出生後に表現形異常のため遺伝子検査をおこなう小児例と比較しても検出率は高い。これは、胎児期において詳細超音波検査で胎児形態を正確に分類評価することにより、出生前遺伝子検査の適応を絞っているからであろう。また,大脳皮質形成異常に関する遺伝子変異は出生後の報告は多くなってきているが、出生前の画像診断との関係はまだ明らかになっていないものも多い。当院では胎児脳センターを設立して詳細な神経超音波検査により妊娠18-21週で大脳皮質形成異常を予測できる超音波マーカーを考案し、それらと関連した遺伝子変異の診断を行っている。mTOR系関連遺伝子など、脳発達に重要な遺伝子変異などが多く見つかってきているが、これらの遺伝子解析はすべて詳細な脳神経系超音波診断と密接に関係している。今回の講演では、種々のデータ解析とともに出生前遺伝子解析の適応についての詳細を講演の中に盛り込んでわかりやすく解説したい。
休憩(10分間)
- 13:1015:10
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シンポジウム 妊娠と薬剤※妊婦・授乳婦専門薬剤師および妊婦・授乳婦薬剤療法認定薬剤師 単位認定対象【第1部】日本におけるTeratology Information servicesのデータベースを用いた研究成果と課題
ドンペリドンを例として座長:
村島 温子国立成育医療研究センター
林 昌洋虎の門病院-
村島 温子国立成育医療研究センター
抄録
妊娠と薬情報センター(JDIIP)は、妊娠中の薬物使用に不安を感じている女性に対して、薬物の安全性に関する情報を提供することと、相談事例に基づく疫学調査によるエビデンスの創出を目的として、2005年に厚生労働省の事業として設立された。JDIIPは設立以来、妊娠中の医薬品の適正使用を推進することで、母児の健康に多くの貢献をしてきた。カウンセリングが妊娠中に薬物を使用している女性の不安を軽減するために有効であること、妊娠継続の意思を後押し出産まで導いたということを客観的に示すこともできている。47都道府県の拠点病院で構成されたネットワークは、日本全国の女性への情報提供に重要な役割を果たしている。 安全性を解析したい薬剤への曝露事例は稀であることが多いため、質の高いエビデンスを得るためには、国内外の催奇形情報サービスのネットワークが必要である。 その一環として、JDIIPでは、JDIIPと虎の門病院のデータを組み合わせたエビデンスの作成に取り組んでいるが、ドンペリドンの安全性に関する論文はその典型的な例である。JDIIPは、薬剤師や医師の教育、各医学会の臨床診療ガイドラインの作成に貢献している。2016年からは、厚生労働省からの委託を受け、添付文書改訂に関する提言書作成も行っている。免疫抑制剤は、そのプロジェクトの最初の成果であった。今後の課題としては、相談したい人が気軽に相談できる環境を作ること、安全性の根拠を作りやすい仕組みを作ること、組織の継続的な発展を目指すことなどが挙げられる。 -
後藤 美賀子国立成育医療研究センター妊娠と薬情報センター
抄録
本邦における2大Teratology Information services:TISは虎の門病院(1988年開設)と国立成育医療研究センターの妊娠と薬情報センター(2005年に開設)である。両TISは、妊娠と薬に関する相談外来の業務を行なってきた。相談に際して必要となる情報は、ヒトの妊婦の曝露例を元とした疫学研究であるが、実際は十分な疫学研究が存在する薬剤は限られているのが現状である。両TISは、相談業務のみならず、相談症例データベースの構築に務めてきた。データベースには同意が得られた妊婦に対して、妊娠中に使用したすべての薬剤と曝露時期などの情報をはじめ、出産時の児の情報や先天異常の情報も含まれている。日本医療研究開発機構(AMED)委託研究費「妊婦及び授乳婦への薬物投与に関するリスク・ベネフィットに関する研究」(2017-2020)において、各施設の相談症例データベースを活用し、妊娠中の薬剤の安全性に関するエビデンスを構築すべく、症例数を増やすことを目的として両データベースの統合をおこなった。統合データベースの中でn数が多く、かつ研究開始時点で十分なエビデンスがない薬剤を選定し、研究対象薬剤とした。両施設でそれぞれ独自のフォーマットを用いており、共通する項目と異なる項目があり、共通項目においてもコード化が異なるなどの違いがみられた。本シンポジウムにおいては、統合データベースを活かした妊娠中の薬剤の安全性に関するエビデンスの確立について実際の例を紹介するとともに、今後当該分野におけるエビデンスを確立していくために必要な情報収集の在り方を論じたい。 -
菱沼 加代子虎の門病院
抄録
ドンペリドンは吐き気、嘔吐などの胃腸症状の治療に広く使用されている。生殖発生毒性試験において高用量投与で催奇形性が観察されているため添付文書では妊婦又は妊娠している可能性のある女性への使用は禁忌であるが、妊娠と気づかず胃腸症状に対して処方された女性が服薬後に胎児への影響を心配する症例が少なくない。ドンペリドンの催奇形リスクに関しては人では小規模コホート研究が報告されているのみであった。
本研究では、国立成育医療研究センター「妊娠と薬情報センター」又は虎の門病院「妊娠と薬相談外来」にてカウンセリングを受けた症例の結合データベースを用いて、妊娠第1三半期のドンペリドン曝露による催奇形リスクを評価した。選択基準に合致したドンペリドン服用例は519人であり、対照群は非催奇形薬剤服用例1673人とした。単生児における大奇形の発生率(95%信頼区間[CI])は、ドンペリドン群で2.9% (14/485、95%CI: 1.6-4.8)、対照群で1.7% (27/1554、95%CI: 1.1-2.5) であり、ドンペリドン群と対照群の間で大奇形発生率に有意差は見られなかった (調整後オッズ比: 1.86 [95%CI: 0.73-4.70]、P=0.191、多変量ロジスティック回帰分析)。なお、妊婦の制吐薬としても汎用されるメトクロプラミド服用例241人を参照群として対照群と比較したところ同様の結果が得られた。
今回の研究で、妊娠第1三半期のドンペリドン曝露が出生児の大奇形発生のリスク増加と関連していないことを示すことができ、服薬妊婦の不安を軽減しうる根拠を提示できたと考えられる。欧米では催奇形カウンセリング施設が共同して実施したコホート研究により人胎児への催奇形リスクを解明した研究が報告されている。本邦では我々の研究が初めてのものであり妊婦服薬カウンセリング施設における妊婦曝露例・新生児データの集積と解析が有用であることが確認された。
本研究は指針に則り両施設の倫理委員会の承認を得て実施した。 -
ドンペリドンの生殖発生毒性試験成績
下村 和裕第一三共株式会社ワクチン研究所
抄録
日本で悪心、嘔吐、食欲不振などの消化器症状に広く使われているドンペリドンは添付文書では「妊婦又は妊娠している可能性のある女性には投与しないこと」となっている。その根拠として「動物実験(ラット)で骨格、内臓異常等の催奇形性が報告されている」と記載されている。しかし、最近、国立成育医療研究センターから、大規模な症例データベースを分析した結果、ドンペリドンには胎児リスクの増加には関連しないとのニュースリリースが行われた。
ドンペリドンの生殖発生毒性試験の一部として、マウス、ラット、ウサギの経口投与による胎児の器官形成期投与試験およびラットの腹腔内投与およびウサギの静脈内投与による胎児の器官形成期投与試験が1980年以前に実施されている。いまより40年以上前であり、その当時の生殖発生毒性試験法ガイドラインおよび添付文書記載要領は現在のものとは異なる。日本では過去のサリドマイド禍の経験から、催奇形性評価に関して以前は医薬品そのもののハザード評価の傾向が強かったが、近年、ガイドラインも添付文書記載要領も国際的な調和が進められ、暴露を考慮したヒトにおけるリスク評価にシフトしてきている。
今回、現在のガイドラインおよび記載要領を基にした視点から、あらためてドンペリドンの生殖発生毒性試験成績を評価してみたい。
【第2部】座長:下村 和裕第一三共株式会社ワクチン研究所-
鈴木 直聖マリアンナ医科大学産婦人科学
抄録
近年がん医療と生殖医療の発展に伴い、がん治療開始前に妊孕性(子供を将来授かる可能性)を温存できる小児・AYA世代がん患者が増加している。がん治療医は、がん治療開始まで時間的猶予が無い中で、がん患者に対して治療による性腺機能障害の可能性に関する正確な情報を伝え、生殖医療を専門とする医師との密な連携のもと、妊孕性温存療法に関する患者の意思決定を促す場を可能な限り早期に提供すべきである。なお、がん・生殖医療においては、原則としてがん治療が何よりも優先されることになる。一方、挙児希望を有するがん患者が、原疾患の状態によってはがん治療終了後早期に、妊娠をトライする場合がある。その際、抗がん薬による治療や放射線治療の配偶子に対する影響を排除した後に、がん治療終了後いつから妊娠をトライすることが可能になるのかが問題となる。生殖可能な若年がん患者等への医薬品使用が胚・胎児又は次世代に及ぼす影響を回避するために、米国食品医薬品局は2019年5月に、又2020年2月には欧州医薬品庁が本領域のガイダンスを公表した。しかしながら本邦には、本領域のガイダンスに該当する指針が存在していなかった。そこで、AMEDの「生殖能を有する者に対する医薬品の適正使用に関する情報提供のあり方の研究班」では、生殖医療、毒性学及び医薬品の安全対策に精通した専門家の意見を集約して、医薬品使用時の避妊に対する考え方に係るガイダンスを2021年3月に作成した。本講演では、小児・AYA世代がん患者に対する医薬品の生殖毒性に関するガイダンス並びにプレコンセプションケアの重要性に関する概説を行う。
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休憩(10分間)
- 15:2016:50
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DNTシンポジウム
妊婦の甲状腺機能低下と児の知能発達座長:青山 博昭一般社団法人残留農薬研究所桑形 麻樹子国立医薬品食品衛生研究所
安全性生物試験研究センター毒性部第二室
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青山 博昭一般社団法人残留農薬研究所
抄録
欧米諸国では,複数の大規模疫学調査で妊娠期間中における母親の血中甲状腺ホルモン濃度の低下と出生児の知能低下との間に明らかな相関性が認められたことを契機に,妊婦の甲状腺機能低下に起因する児の僅かな知能低下に関する懸念が高まっている。このため,様々な化合物の毒性を評価するOECDの試験法ガイドラインにも,発生毒性試験や亜急性毒性試験で動物(発生毒性試験においては母動物)の甲状腺ホルモン(T3及びT4)及び甲状腺刺激ホルモン(TSH)の定量的評価を追加する措置が取られた。また,様々な化合物の発達神経毒性(DNT)を迅速に予測する一連のin vitro試験法の開発や,甲状腺に対する影響が懸念される化合物についてDNT試験実施の要否を判断するための新たなin vivo試験(Comparative Thyroid Assay)の実用化が進んでいる。しかし,これらの試験で得られるデータの解釈やリスク評価の実施には未だ解決すべき問題が幾つも残っており,リスク評価に関わる専門家による議論が続いている。一方,我が国においてはこの問題に対する対応がやや遅れているように見受けられ,妊婦の甲状腺機能低下が出生児の僅かな知能低下を引き起こすリスクは,臨床現場においてもさほど深刻な問題として受け止められてはいないように感じられる。
今回のシンポジウムでは,妊婦の甲状腺機能低下と児の知能発達をテーマに,様々な化合物のばく露が母親の甲状腺機能低下を介して二次的に胎児の神経発達に及ぼす影響を予測するために開発された最新の試験法について,毒性評価の専門家にそれらの概要を解説していただく。また,この問題に対する日本の医療現場の認識や様々な甲状腺疾患を持つ妊婦への対応について,甲状腺疾患を専門とする臨床医の立場から現状を報告していただく予定である。 -
山田 智也住友化学株式会社 生物環境科学研究所
抄録
Thyroid hormone(TH)は脳発達に必須であることから、母親の血中TH濃度が過度に低下した際、児の脳に発達障害が起きることがヒトや実験動物で報告されている。化学物質のなかには甲状腺でのTH合成の阻害作用や肝臓の代謝酵素誘導の二次的作用などによって血中TH濃度を低下させるものが散見される。これら化学物質による血中TH低下の程度と脳の発達障害発現との定量的な関連性は未だ充分には理解されておらず、特に肝代謝酵素誘導剤による軽微なTH低下作用の影響を精査する必要がある。発達神経毒性(Developmental neurotoxicity: DNT)の可能性が懸念される化学物質は、国際的に標準化されたDNT試験を実施してその影響の有無を調べる。しかしながら当該試験の実施には膨大な資源(動物・時間・費用)を要することから、多数の化学物質を評価するためにはより簡便なスクリーニング試験の開発が望まれる。我々は、Adverse Outcome Pathway (AOP) conceptを考慮し、児の脳発達障害の前段で必須過程として生じる血中や脳中のTH濃度の低下の有無を調べることでTH低下に起因するDNTをスクリーニングすることを考えた。実際には、米国環境保護庁が提唱する母ラットと児ラットとの血中TH濃度の比較試験Comparative Thyroid Assay(CTA)を用いて児動物の血中TH濃度への影響を調べること、また必要に応じて児動物の脳中TH濃度や脳の病理組織を追加観察する試験系の検証に着手した。今回、TH合成阻害剤propylthiouracil(10 ppm)あるいは肝代謝酵素誘導剤phenobarbital(1000 ppm)を混餌投与した後、母動物と胎児・児動物についてTH濃度を含む各種影響の有無を調べたので、CTAのDNTスクリーニングとしての有用性に関して考察したい。 -
諫田 泰成国立医薬品食品衛生研究所薬理部
抄録
近年、自閉症スペクトラム障害・注意欠陥多動性障害など発達障害の子供が増加することが社会問題となっている。その原因の一つとして、胎生期の中枢神経系の発達に対する化学物質の影響が懸念されている。DNTガイドラインは妊娠動物を用いて化学物質の評価をしているが、コストや時間、多くの動物が必要となるため、動物実験代替法の観点からDNTが懸念される化学物質をメカニズムベースに評価可能なインビトロ評価法が議論されている。
特に、ヒトiPS細胞は神経発生過程をカバーしているため、インビトロ DNT試験法に活用できることが想定され、現在、DNTガイダンスの議論が進行中である。我々はヒトiPS細胞の分化能およびヒトiPS細胞由来神経細胞のネットワーク活動評価できるMEAアッセイなどを用いてDNTが懸念される化合物のインビトロ評価を行うとともに、DNTガイダンスの専門家会議に参加している。
さらに、臨床において、母体における甲状腺機能低下は子供の脳や発達に影響を与えることが知られているため、甲状腺ホルモンの影響を加味したインビトロ評価法の開発が期待される。
本シンポジウムでは、インビトロDNT試験法の現状と今後の課題について議論したい。 -
吉原 愛伊藤病院 内科
抄録
甲状腺ホルモンは胎児の神経発達に重要な役割を担っている。妊娠中に母体が甲状腺機能低下症でホルモン管理が不良であった場合、児の神経発達に影響することが知られている。ヒトの胎児における甲状腺ホルモン受容体は妊娠10週から発現が認められ、妊娠16週にはその発現は50倍に増加する。胎児の甲状腺が形成され、ホルモンが合成されるのは妊娠12~14週以降であり、それまでの期間は微量ではあるが甲状腺ホルモンは胎盤を経由して母体から供給され、胎児の中枢神経系の形成に重要な役割を果たしている。したがって、妊娠時に甲状腺機能低下症が判明した場合には速やかにT4製剤による甲状腺ホルモン薬の投与を開始する。また、甲状腺ホルモン合成についてはヨウ素が必要不可欠であり、ヨウ素欠乏状態にある場合にはさらに母体甲状腺機能低下症が胎児に与える影響は大きいと考えられる。ヨウ素欠乏地域において、ヨウ素補充を行ったところ児の認知機能の成績が上昇した。したがって、海外におけるヨウ素欠乏地域では妊婦のヨウ素補充を推奨している。観察研究において、妊娠中に内服介入のない妊婦から誕生した児のMRI検査を8-10歳で撮像したところ、灰白質、大脳皮質の容積は母体の妊娠初期の甲状腺刺激ホルモン(TSH)値、FT4値で適正な範囲にある群が最も容積が大きい山形の分布を呈した。甲状腺機能低下症に対する補充療法の有用性は確立されている。一方、甲状腺機能は正常でTSHが高値を示す潜在性甲状腺機能低下症やTSHは正常であるがFT4のみ低値を示す低T4血症といったマイルドな甲状腺機能異常については、児の知能との関連、補充療法の効果についても様々な報告があり、スクリーニングや補充開始する時期をふくめ、現在も議論が重ねられている。
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- 17:0017:10
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閉会式、次大会長挨拶