【SL-1】サリドマイドのターゲットCereblonの発見と展開
先天異常発症機序の解明から創薬へ
東京医科大学 ケミカルバイオロジー講座
サリドマイド(Thal)は1956年に鎮静催眠剤として販売されたが、妊婦が服用すると生まれてくる子供にアザラシ肢症などの胎芽症発症という薬害を引き起こし、1962年には市場から撤退した。ところが30数年を経て、難治病のハンセン病や血液がんの多発性骨髄腫(MM)への有効性が認められ、今ではThal誘導体も開発され、MMの治療薬として市場に舞い戻った稀有な薬剤である。我々はThalの多彩な薬理作用に着目し、アフィニティビーズ技術を用いて、それら作用に関わるターゲットの分離を試みた。その結果、Cereblon(CRBN)を分離・同定し、CRBNはE3ユビキチン(Ub)リガーゼ複合体のサブユニットである基質受容体として働き、Thal催奇性のターゲットであることを示した。さらに、Thalと第2世代Thal誘導体は、免疫調節剤(immunomodulatory imide drugs: IMiDs)と呼ばれ、がん細胞増殖を阻害し、かつ免疫担当T細胞を活性化する多面的な抗がん作用を発揮する。CRBNはこの抗がん作用のターゲットでもあり、またIMiDsの抗がん作用に関わるCRBNの新規基質タンパク質(ネオ基質)が同定され、ネオ基質がCRBN/IMiD複合体を認識し、選択的に結合し、Ub化・分解されることもわかった。その後、第3世代Thal誘導体が開発され、Thal誘導体の薬理作用が理解され、CRBN/Thal誘導体/ネオ基質複合体の高次構造も解明された。それまでの研究成果から、”CRBN E3 Ligase Modulators (CELMoDs)”および”CRBN-based proteolysis targeting chimras (PROTACs)”と呼ばれる2つの創薬開発の流れが生まれた。Thal主作用の研究を通じて、副作用も同様の機構で発症するのではと推測され、最近、Thal催奇性の原因となるCRBNのネオ基質が同定された。本学会では、これらネオ基質のUb化・分解により誘導されるThal催奇性の発症モデルを紹介したい。