【S4-2】化学物質の甲状腺ホルモン低下作用に起因する発達神経毒性ポテンシャルのスクリーニング
住友化学株式会社 生物環境科学研究所
Thyroid hormone(TH)は脳発達に必須であることから、母親の血中TH濃度が過度に低下した際、児の脳に発達障害が起きることがヒトや実験動物で報告されている。化学物質のなかには甲状腺でのTH合成の阻害作用や肝臓の代謝酵素誘導の二次的作用などによって血中TH濃度を低下させるものが散見される。これら化学物質による血中TH低下の程度と脳の発達障害発現との定量的な関連性は未だ充分には理解されておらず、特に肝代謝酵素誘導剤による軽微なTH低下作用の影響を精査する必要がある。発達神経毒性(Developmental neurotoxicity: DNT)の可能性が懸念される化学物質は、国際的に標準化されたDNT試験を実施してその影響の有無を調べる。しかしながら当該試験の実施には膨大な資源(動物・時間・費用)を要することから、多数の化学物質を評価するためにはより簡便なスクリーニング試験の開発が望まれる。我々は、Adverse Outcome Pathway (AOP) conceptを考慮し、児の脳発達障害の前段で必須過程として生じる血中や脳中のTH濃度の低下の有無を調べることでTH低下に起因するDNTをスクリーニングすることを考えた。実際には、米国環境保護庁が提唱する母ラットと児ラットとの血中TH濃度の比較試験Comparative Thyroid Assay(CTA)を用いて児動物の血中TH濃度への影響を調べること、また必要に応じて児動物の脳中TH濃度や脳の病理組織を追加観察する試験系の検証に着手した。今回、TH合成阻害剤propylthiouracil(10 ppm)あるいは肝代謝酵素誘導剤phenobarbital(1000 ppm)を混餌投与した後、母動物と胎児・児動物についてTH濃度を含む各種影響の有無を調べたので、CTAのDNTスクリーニングとしての有用性に関して考察したい。