【S4-1】妊婦の甲状腺機能低下と児の知能発達
伊藤病院 内科
甲状腺ホルモンは胎児の神経発達に重要な役割を担っている。妊娠中に母体が甲状腺機能低下症でホルモン管理が不良であった場合、児の神経発達に影響することが知られている。ヒトの胎児における甲状腺ホルモン受容体は妊娠10週から発現が認められ、妊娠16週にはその発現は50倍に増加する。胎児の甲状腺が形成され、ホルモンが合成されるのは妊娠12~14週以降であり、それまでの期間は微量ではあるが甲状腺ホルモンは胎盤を経由して母体から供給され、胎児の中枢神経系の形成に重要な役割を果たしている。したがって、妊娠時に甲状腺機能低下症が判明した場合には速やかにT4製剤による甲状腺ホルモン薬の投与を開始する。また、甲状腺ホルモン合成についてはヨウ素が必要不可欠であり、ヨウ素欠乏状態にある場合にはさらに母体甲状腺機能低下症が胎児に与える影響は大きいと考えられる。ヨウ素欠乏地域において、ヨウ素補充を行ったところ児の認知機能の成績が上昇した。したがって、海外におけるヨウ素欠乏地域では妊婦のヨウ素補充を推奨している。観察研究において、妊娠中に内服介入のない妊婦から誕生した児のMRI検査を8-10歳で撮像したところ、灰白質、大脳皮質の容積は母体の妊娠初期の甲状腺刺激ホルモン(TSH)値、FT4値で適正な範囲にある群が最も容積が大きい山形の分布を呈した。甲状腺機能低下症に対する補充療法の有用性は確立されている。一方、甲状腺機能は正常でTSHが高値を示す潜在性甲状腺機能低下症やTSHは正常であるがFT4のみ低値を示す低T4血症といったマイルドな甲状腺機能異常については、児の知能との関連、補充療法の効果についても様々な報告があり、スクリーニングや補充開始する時期をふくめ、現在も議論が重ねられている。