【S1-2】環境要因による胚の細胞品質管理機構の破綻と成体におけるモザイク関連疾患の理解
大阪大学 微生物病研究所 生体統御分野
近年の技術革新により、発生期の胚に生じたゲノム・エピゲノム異常細胞(不良細胞)を起源とするモザイクがアルツハイマー病や自閉症などの神経疾患や糖尿病や高血圧などの成人疾患の発症に関与することや、その異常が次世代に継承され疾患を引き起こすケースもあることが明らかになりつつある。これらの事実は、胚に生じた不良細胞の出現・活動の抑制が将来の疾患予防に重要であることを示唆する。我々は最近、ゼブラフィッシュイメージング解析により、動物胚が突発的に生じた種々の不良細胞を排除・抑制する細胞品質管理機構を備えていることを発見した。この細胞品質管理機構においては、隣接正常細胞が細胞間コミュニケーションを介して不良細胞の出現を感知し、不良細胞に細胞死を促すことで胚組織の恒常性を維持する。また、哺乳類胚においても同様の細胞品質管理機構が機能することがわかりつつある。興味深いことに、ゼブラフィッシュ胚に特定の環境変化を与えると、細胞品質管理機構が破綻して不良細胞が蓄積し、モザイク状の異常を生じる。したがって、ヒト成体に見られる変異モザイクの一部は、おそらく、この機構による除去を回避した不良細胞によって発生した、あるいは、除去機構の破綻の結果として生じた、と推測される。しかしながら、胚に不良細胞が出現するメカニズムや、胚に生じた不良細胞がモザイクを形成し疾患を引き起こすプロセスも不明である。本シンポジウムでは、ゼブラフィッシュをモデルとした、胚の細胞品質管理機構と、その環境因子・遺伝的因子による破綻と疾患の関連についての研究を紹介する。また、この研究に加えて、ゼブラフィッシュをモデルとしたヒト希少疾患原因遺伝子の解析の成果についてもご紹介したい。