【AL-2】トランスクリプトームおよび全ゲノム解析を用いたキメラ遺伝子形成による先天性遺伝性疾患発症機序の解明
慶應義塾大学 医学部 臨床遺伝学センター
腫瘍学の分野においてキメラ遺伝子形成は疾患発症機序として確立した概念となっている。キメラ遺伝子は逆位、欠失、重複、転座などの染色体異常により2つ以上の異なる遺伝子やその一部が融合して生じた遺伝子のことである。一方、先天性遺伝性疾患の発症機序の一つとしてゲノム構造異常は重要な位置を占めるが、ゲノム構造異常に基づくキメラ遺伝子形成やその影響について十分な検討はなされていない。我々は次世代シーケンサーを用いた網羅的ゲノム変異解析が一般化するなかで診断率向上のために打破すべき壁ともいえるゲノム構造異常の検出とそれにより引き起こされるキメラ遺伝子が形成されている患者の同定を目指した。標準的なエクソーム解析およびトランスクリプトーム解析で診断に至っていなかった患者56名に対して、がんゲノム領域で開発されたキメラ形成を検出するためのアルゴリズムChimPipeを適用し、2名の患者において診断確定に至った。1名は臨床所見からMowat-Wilson症候群が疑われているにも関わらず従来の検出手法で診断ができなかった患者においてZEB2-GTDC1融合遺伝子が形成されていることを検出した。全ゲノム解析を並行して実施し、ZEB2、GTDC1の両遺伝子を含む欠失を確認できた。他方は精神発達遅滞を伴う先天異常症候群の患者であり、カリウムチャネル構成因子KCNK9-TRAPPC9融合遺伝子が形成されていた。全ゲノム解析を並行して実施し、患者にKCNK9、TRAPPC9の両遺伝子に及ぶ欠失を確認できた。本研究により、生殖細胞系列変異による先天遺伝性疾患の発症過程においてもキメラ遺伝子形成が重要な役割を果たすことが示された。今後もトランスクリプトーム解析や全ゲノム解析のような新たな解析技術を用いることで先天性遺伝性疾患の疾患機序の解明に貢献したい。